ホビット 決戦のゆくえ

本作で完結となる『ホビット』は3部作だが、その前作にして後日談の『ロード・オブ・ザ・リング』3部作までを含めれば、なんと6本、18時間にも及ぶとてつもない壮大さの作品だ。

映画史上稀に見る長大なシリーズの完結編である本作は、これまでの5作すべてを総括し、また繋ぐ役割を持っている。トールキンが伝え酔うとしていたテーマに立ち返り、また新しいアイデアを豊富に盛り込んだ大作であり、中つ国の物語を締めくくるにふさわしい完成度である。

20世紀最高のファンタジーと言われる異世界をスクリーンの中に再現するのはあまりに高すぎるハードルだが、ピーター・ジャクソン監督は見事にそれを超えてみせた。


魔法使いガンダルフ(イアン・マッケラン)に導かれ、旅に出たビルボ・バギンス(マーティン・フリーマン)。トーリン(リチャード・アーミテージ)たちドワーフとともに、ついに彼らの故郷・はなれ山へとたどり着いた。

だが、彼らははなれ山に棲みついた悪竜スマウグを怒らせてしまった。スマウグに街を襲われ、すみかをうしなったバルド(ルーク・エヴァンス)ら人間は、はなれ山のドワーフたちに助けを請う。

いっぽう、魔法使いガンダルフ(イアン・マッケラン)はオークの首領アゾグに捕らわれていた。オークたちの異変を察したレゴラス(オーランド・ブルーム)らもはなれ山へ向かう。

はなれ山の宝の山へ向け、すべての軍勢が向かう。のちに「五軍の合戦」と呼ばれる戦いがはじまろうとしていた。


本作の立ち位置を明確にするため、『ホビット』について簡単に解説しておこう。

原作『ホビットの冒険』はイギリスの作家J・R・R・トールキンが1937年に書き上げた小説であり、その対象層は児童だった。その後、トールキンは『ホビットの冒険』の続編にあたる『指輪物語』を発表し、同作は20世紀を代表する文学作品になる。こちらは完全に大人向けの、壮大な時間的広がりを持った作品だ。

以降のファンタジー作品はすべてこれら中つ国を舞台にしたトールキンの作品の影響を受けていると言っても過言ではない、象徴的な作品である。


さて、もともと児童向け作品だったからして、『ホビット』第一作、『思いがけない冒険』にはその雰囲気が色濃く残され、明るく楽しい雰囲気になっている。

ところが、第二作『竜に奪われた王国』から一変。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズと同様、重厚で格調高い本格ファンタジーとして描かれている。明らかに『ロード・オブ・ザ・リング』へのブリッジを意識したものだ。

これは、ピーター・ジャクソンによる物語の改編というわけではない。『指輪物語』の巻末に収録された『追補編』などで、『ホビットの冒険』を中つ国の歴史の一部として語り直そうとしていた様子がある。たとえば、ガンダルフがビルボと別れている間に何をしていたか……ということは、本作で詳細に描かれているのは見れば分かるとおりだ。

つまり、トールキンの意向を引き継ぎ、壮大な歴史の一部としての『ホビットの冒険』を再現してみせるのが、本シリーズの目的だったと言える。


その狙いはおおむね成功しており、特に悪竜スマウグが登場して以降は、本作の物語が持つ悪の面、重厚で壮大な精神の対決が中心的なテーマとして浮かび上がってくる。

テーマを体現する存在がトーリン・オーケンシールドだ。「竜の病」に犯された彼は、黄金の山と玉座に心を奪われ、協力してくれた異種族はもとより、共に旅をしてきた仲間たちに対する信頼を失ってしまう。

富や名誉、権力に執着するあまり、善良な心をなくしてしまう……というのは、いまではあまりに語り尽くされたテーマだ。しかし、この物語のスケールと見事な演出により描かれれば、まさに普遍的なメッセージとして強く訴えかけてくる。

そして、観客の心をひきつけてやまないビルボ・バギンス……見た目はイケメンなわけでもなく威厳もない彼こそが、それらの誘惑を振り切る善意の体現者として、テーマをいっそう強くなげかけるわけだ。


とはいえ、原作通りにやったのでは、そのテーマが語られるまでにあまりエピソードがない。特に、原作でははなれ山に到着して以降の話はそれほど長くはない。そこで本作は、アクションシーンがたっぷり追加されている。

まず目を引くのは、「五軍の合戦」の名の通りの合戦シーンだ。

ドワーフ、オーク、エルフという幻想世界の種族が合戦をするなら、どんな戦い方をするのか。はりめぐらされたアイデアを、圧倒的なスケールで描き出してみせる。似たようなシーンを避け、物語的進行はなくとも合戦の状況の変化だけでも間を持たせる力がある。


集団戦以上の見せ場として配置されているのが、首領格のキャラクターどうしの決闘だ。

エルフの王子レゴラスとオークの戦士ボルグの戦いは、いかにもピーター・ジャクソンらしロケーションで、縦横無尽に動き回るカメラの効果もあって、非常にめまぐるしい。現代の技術を踏まえていても、「どうやって撮ってるんだ!?」と驚かずにはいられない。

そしてまた、誰もが見たかったトーリンと“穢れの王”アゾグとの戦いは、本作最高のアイデアが盛り込まれており、決戦のゆくえから目を離せない作りになっている。

氷の上での戦いは児童文学的なアイデアと、叙事詩としての画面づくりが合わさった、本作最大のアクションシーンと言える。あそこまでやっておいたアゾグにとどめが刺せなかったというのはいまいち説得力に欠けるが、そこは闇の力と考えて納得するべきだろう。


本作は『ホビット』完結編であると同時に、『ロード・オブ・ザ・リング』へのブリッジの役割も持っている。

『ホビット』から『ロード・オブ・ザ・リング』、そして長大な中つ国の歴史、異世界の風景に身を浸すことこそ本シリーズの本当の楽しみ方だ。通して見れば、あなたの心にもホビットやドワーフたちがあらわれ、暮らしはじめることだろう。

本シリーズでは必ず未公開映像が本編に追加された「エクステンデッド・バージョン」のソフトが発売される。本編で説明不足だった描写や、原作ファンが不満に感じられる省略などは、そちらに収録されると考えたほうがいいだろう。映画の全貌は、エクステンデッド・バージョン版をお楽しみに。



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