インターステラー

今や世界を代表するビッグバジェット監督となったクリストファー・ノーランの作品の特徴は、壮大なスケール、ほどよい難解さのストーリー、そして重厚な画面づくり……こういったところだろう。
 重力やブラックホールに関する論文で有名な理論物理学者キップ・ソーンを製作総指揮に向かえた本作は、そんなノーラン監督の持ち味が最大限発揮されている。
 外宇宙探索というSFの王道中の王道でありながら、同時に1人の男の人生を描き、壮大なスケール感とわかりやすいテーマ、SFとヒューマンドラマを見事に両立させた傑作だ。

地球は環境変化によって砂嵐に覆われ、人類は深刻な食料不足に直面していた。
 元パイロットであり、田舎町でトウモロコシ栽培を営むクーパー(マシュー・マコノヒー)は、娘マーフ(マッケンジー・フォイ)とともに自宅に起きたある異変からメッセージを解読する。そのメッセージに示された座標では、解体されたはずのNASAが秘密裏にプロジェクトを進めていた。その目的は、土星周辺に現れたワームホールを通り、外宇宙を探索すること。そして、人類が居住可能な惑星を見つけ出すことだった。
 家族の未来を救うため、クーパーはプロジェクトへの参加を決意する。娘に別れを告げ、アメリア博士(アン・ハサウェイ)らと共に、人類史上最大の旅へ出発する……。

167分の上映時間は超大作に相応しいが、それ以上に内容は密度の濃いものになっている。
 クーパーが娘マーフに「必ず帰ってくる」と約束したことで、外宇宙の探索という壮大な冒険と、ひとつの家族の物語が同時に進行していく。
 ノーラン監督の作品は、単体で成り立ちそうなアイデアを一本に詰め込んだ結果、上映時間が長くなるきらいがあるが、本作はSFとヒューマンドラマの2本の柱が見事に融合していく。
 宇宙の探索には、もちろん長い時間がかかる。その上、ワームホールの先には巨大ブラックホールがあるのだ。相対性理論に基づいて、その周辺では時間の流れが遅くなる。つまり、クーパーにとっては数年ほどの旅でも、地球ではその間に何十年もの時間が経っているかもしれないのだ。

最新の科学的考証を用いて描かれる宇宙の景観は、大いに想像力を刺激してくれるものだ。理論上の存在であるワームホールを視覚化し、最新の研究に基づくブラックホールは、驚異的でありながら一種の美を感じさせる。
 また、あらゆる景色がCGで作り出せる現在にありながら、宇宙船のセットやミニチュアを使用した、「実在感」が大いに感じられる映像づくりは、本物にこだわる監督ならではのもの。宇宙服も、実際のものを使用しているのだというから凄まじい徹底ぶりだ。
 居住候補の惑星はたった三つだが、それぞれに度肝を抜くような景観と濃密なドラマが用意されている。特に、「海の惑星」で描かれる自然の猛威は、地球上では想像できないほどのスケール感。日本人には少々刺激が強い映像かもしれないが、ぞっとする感触もこの映画を成立させる重要な要素である。

一方、本作をヒューマンドラマとして成り立たせているのは、やはり実在感があるキャラクター。意外なほどに少ない本作の登場人物は、その分厳選されて、それぞれの役割を演じきっている。
 主役のマシュー・マコノヒーは家族を思う親と冒険家としての資質の両方を持った、生身の男性として。アン・ハサウェイは冷静であろうとしながらも、感情を燃やす女性として、クーパーには負えない役割をまっとうしている。
 特筆したいのは、中盤の展開を支えるマン博士を演じるマット・デイモン。怪演と呼ぶに相応しい演技で、本作随一のスリリングなシーンを作り出している。

本作は『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督)をはじめとした、様々なSF映画へのリスペクトが随所に感じられる。となれば、忘れてはいけないのがロボットだ。
 3体のロボット「TARS」「CASE」「KIPP」(声:ビル・アーウィン)は、人類が自ら生み出した最愛の友として描かれる。様々な場面で活躍を見せてくれるのだ。特に、あるシーンで見せる変化には噴き出してしまいそうなインパクトがある。
 一見、鈍重にばたばたと動く彼らは、いざとなれば驚くべき機能を発揮してクーパーらを助けてくれる。宇宙で寂しくならないよう、会話の相手もしてくれるのだから、願ったりかなったりだ。

終わってみれば、キャラクターの誰が欠けても、あの感動的な結末へ至ることはないだろう、と思える。見事な話運びである。
 マン博士の独断的な行動ですら結末に至るためには必要なのだから、人間の弱い部分まで含めていとおしむような、監督の温かい視点が感じられるような気がする。
 宇宙規模に広がった話が、父と娘の関係に収縮していく。それはスケールの縮小というよりは、むしろ壮大な冒険が、観客ひとりひとりにとっても身近な問題であると感じられるような作りになっている。

無理があるような気がするけど、でも感動的だ。制作者の意図が見え見えなんだけど、その意図にすら心を揺さぶられる。こういう感覚をなんというんだっけ……。
 ああ、そうだ。
 これこそまさに、センス・オブ・ワンダーというのだった。



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