100歳の華麗なる冒険

 物語を描くには、二つの方向性がある。
 ひとつは、登場人物や世界を掘り下げ、「深度」を増すことで物語を推進させていく方向。
 もうひとつは規模、スケールを広げることで、物語をどんどんエスカレートさせていく方向。映画ではこちらの方向性が相性がいいように思う。実際に映像で、何がどうなっているかを示すことができるからだ。
 さて、「100歳の華麗なる冒険」は、スウェーデン国内で興行収入ナンバーワンに輝いた作品であるという。何が人気を集めたのか。それは、本作を観てみれば一目瞭然。この作品のエスカレートぶりはもはや快感の域に到達している。

 スウェーデンにある、とある老人ホーム。入所者のひとり、アラン・カールソン(ロバート・グスタフソン)は、自分の100歳の誕生日パーティを前に、とつぜん窓から抜け出し、バスに乗ってあてどない旅に出発する。
 バスを待つ駅で、ギャングの男から「これを持っていろ、絶対に手放すなよ」と押しつけられたバッグの中には、現金5000万クローナ(およそ8億/2014年11月現在)が入っていた。ギャングがトイレに入っている間に、アランはバッグを持ったままバスに乗ってしまう。
 かくして、アランはギャングや警察に追われ、様々なトラブルに見舞われながらも、どこかマイペースであり続ける。というのも、この老人が過ごしてきた100年の人生は、想像を遙かに超えるものだったのだ……。

 全編を通じてコメディ色強く描かれる本作を魅力的にしているのは、なんといっても主人公の老人、アラン・カールソンだ。
 現世のことに執着せず、ただある種の欲求にだけ興味を向ける。そんな彼の人格を形成してきた背景が、映画がはじまってしばらくは語られることになる。
 こんな父、こんな母、こんなことをして、こんな所に居ました……と、一つ一つはあり得そうな話なのだが、成人する頃には「戦場で端橋を爆破することにしか興味がない男」ができあがる。見事な話運びには、げらげら笑いながらも賞賛の声を贈りたくなる。
 ある事情により、女性に執着せず、かつ政治にも興味を持てない彼のキャラクターは飄々としながらもエネルギッシュで、どこかとぼけた印象だ。それがそのまま、映画全体を貫くカラーになっている。

 本作の展開は大きく2本の柱で構成されている。施設を抜け出したアランが、大金を持ってうろうろしているうちに事件がどんどん大きくなっていく現在。そして、アランがいかなる人生を過ごしてきたのかを描き出す過去。
 このどちらもがエネルギーに満ちている。特に過去の話は、彼の100年の人生がそのまま現実の歴史に重なり、やりすぎなまでのエスカレートだ。スペインではファシズムのリーダー、フランコ将軍、アメリカではマンハッタン計画の主導者オッペンハイマー博士、トルーマン副大統領、さらにはソ連に渡ってスターリン……そんな数多の人物たちと顔を合わせて生きてきたのだ。さらには、レーガンとゴルバチョフの時代には、二国の間で二重スパイとして暗躍し、気づけば彼自身が世界に大きな影響を与えている。
 この人物たちの描き方は一種ステレオタイプでありながら、そのキャラクターを利用してどんどん話がエスカレートしていく。こんなに面白いホラ話はない。映画というのはもともとホラなのだから、これぐらいやってくれたほうが気持ちいいというものだ。

 ひとつひとつはあり得そうなことを積み重ねて、気づくと信じられないような状況になっている、というおかしさは、現在の展開も負けてはいない。100歳を迎えたアランの矜持は、「人生、なるようにしかならない」というもの。
 だから、彼は何が起きても驚かない。自分で状況をコントロールしようとはせず、景色を楽しみ、人々を見つめる……あと、酒を飲む。そもそも、施設を抜け出したのだって酒が飲めないのが不満だったからだ。
 登場するキャラクターも、美男美女というわけではなく、どうにも「どこかで見た事がある」という雰囲気だ。たしかに、こういう人が身近にもいる。すごく身近に感じられるのに、気づけばまたひどい展開に次ぐひどい展開。
 おじいちゃんが施設を抜け出したところから始まる話だというのに、映画的な見せ場には事欠かない。70歳のユーリウス(イヴァル・ヴィクランデル)と出会ったあとは、いきなり犯罪コメディの様相を見せ始める。
 彼を追いかけてきたギャングからどのように逃れるのか(というか、殺すことになるのだけど。「これで殴るか、それとも、こっちかな?」というシーンが好きだ)、5000万の行方は……。とはいえ、アランは周囲の出来事を意に介さず、珍道中と呼ぶに相応しい旅をくり広げていく。

 コメディアンとしての経歴も持つ監督と、国民的コメディ俳優である主演のコンビは、まさにスウェーデンにとって夢のタッグといったところだろう。この上なく贅沢で、どこかマヌケな「間」がこの作品をますます魅力的に変えている。
 観客が「今こそすごいことが起きるぞ!」という期待を裏切らずに事件を起こす。また、思っても観なかったようなタイミングで不意打ちに事件を起こす。まあ、とにかくしょっちゅう事件が起きている。その旅に笑いが起き、どんどんのめり込んで行き着く先から目が話せなくなる仕掛けだ。
 歴史は夜作られる、という。本作でも、夜、他の人物が観ていない場所で様々なことが起きる。特に、トイレではいろいろなことが起きるようだ。妙に印象に残るトイレシーンが多いが、決して下品な印象は残らない。
 むしろ、どこか上品な余韻を残し、最後には「ああ、笑ったなあ。面白い映画を観た」という気分だけが残る、そんな素敵な体験ができる作品だ。



このボタンを押すと、ネタバレ部分が表示されます。

100歳の華麗なる冒険」への3件のフィードバック

  1. ピンバック: lace frontal

  2. ピンバック: Fitflop Flower Sandals

  3. ピンバック: Nike Free

コメントは停止中です。