劇場版アイカツ!

アイドルアニメが隆盛をほこっている。

中でも、現在もっとも巨大なコンテンツと言えるのが、『アイカツ!』だ。数多くの女子児童をアーケード筐体に向かわせ、「アイカツおじさん」などと呼ばれる大人のファンも多数獲得している。

はたして、『アイカツ!』がここまでのヒットコンテンツになったのはなぜか。初の劇場版となる本作では、その答えの一端が示されているように思えた。

それはすなわち、『アイカツ!』は、アイドルのなんたるかにはっきりと向き合っているからに他ならない。


アイドル活動にはげむ高校生、星宮いちご(声:諸星すみれ)。アイカツランキング2位にまで上り詰めた彼女に、スペシャルライブの企画が舞い込む。

「大スター宮いちご祭り」と銘打ったそのライブの会場は、いちごがはじめてトップアイドル・神崎美月(声:寿美菜子)のステージを観た場所だった。

霧矢あおい(声:田所あずさ)や紫吹蘭(声:大橋彩香)ら友人たちの助けも借りながら、ライブの準備を進めていくいちご。

一方、いちごに憧れるアイドル一年生・大空あかり(声:下地紫野)は、なんとしても美月にこのステージを見せようと、神出鬼没の美月を捜しに行く……。


『アイカツ!』がいかなる立ち位置の作品なのか、簡単に触れておこう。

直接の源流はセガの『オシャレ魔女 ラブandベリー』と言えるだろう。カードを集めてそれをアーケード筐体に読み込ませて衣装をコーディネートし、ダンスで得点を競うというコンセプトは、ほぼこの時に成立している。

同様のコンセプトを大人向けとして発展させた『THE IDOLM@STER』が様々なメディアで展開していた一方で、女児向けアーケード業界では激戦が繰り広げられていた。

『ラブベリ』の後継作と言える『リルぷりっ!』(セガ)、『きらりん☆レボリューション ハッピー★アイドルライフ』(アトラス)、『プリティーリズム』(タカラトミー/シンソフィア)などがデパートのゲームコーナーのスペースを競い合っていた。

『ワンタメ ミュージックチャンネル』(カプコン)というキワモノまで作られていたのだから、ひととおりのアイデアは出尽くしていたといえる。

バンダイナムコは『プリキュアデータカードダスシリーズ』を現在まで続けているが、アーケードゲームの客層は『プリキュア』より少し上、小学生くらいだ。自然、苦戦が続いていた。

そこで、バンダイナムコがターゲットに合わせて繰り出したのが『アイカツ!』だ。この狙いは見事に当たり、開始2年目にして100億円を超える売上を記録した。


というわけで、『アイカツ!』は、上であげたような各作品が取り組んできた各種の問題をクリアするためのいくつかの仕掛けがされている。

たとえば、3D作画したキャラクターを引き立てるために、幻想的な光景を背景に投影していたり、衣装をそのままカードに変換しているといたりという、アニメとして非常に都合のいい設定群は、これらの前史を踏まえておくと、必然的に設定されたものだと言える。


最高峰の技術を惜しみなくつぎ込んだ3D表現は見事というほかない。

手書きよりもかわいいとすら言われるレベルに到達した作画は、観るもの皆を驚かせること間違いない。

キャラクターの表現だけではなく、その足場となっているステージまでもをひとつの世界として演出することで、観客の目にも実在感を持って迫ってくる。

一曲一曲がテレビシリーズの中で様々な物語を経て生まれてきたから、ファンにとってはより味わい深くなるはずだ。

難点をあげるなら、ライブがはじまってからのメドレーのつなぎがあまりうまくないこと。感動をぶつ切りにされて出されたような印象になってしまう。


さて、本作で描かれているのは、星宮いちごという『アイカツ!』を象徴するキャラクターが、トップへと上り詰める瞬間だ。

『アイカツ!』の物語は、彼女がアイドルにあこがれてスターライト学園に編入したことからはじまる。

「いつでもあこがれが最初の道しるべ」(SHINING LINE*)と劇中で歌われるように、すべての「アイドル活動」はあこがれと共にある。劇中に登場するアイドルは、みな何かにあこがれているからこそ輝いているのだ。


一方で、そのあこがれの裏側にある残酷さをも、本作は描き出している。

シリーズのスタート時点では、それは競争の厳しさであった。誰かがオーディションに合格すれば、誰かが落ちる。勝者がいなければ、敗者の誰かが勝者になっていたかもしれない。

あこがれが強いほうが勝つとは限らない。あるときは歌唱力が、ある時はキャラクターが、そしてあるときはタイミングが、たまたま他より優れていただけで勝者は代わってしまう。

本作ではアイドルたちに役割が与えられ、明確に活躍の度合いに差がつけられる。それは「話の都合」ではなく、むしろ差をつけることが本作のテーマに従った演出なのだと言える。

アイドル活動はあこがれに近づくのとまったく同時に、他者のあこがれを奪っていくなのだ。


だが、それだけではない。

本作の中で描かれるのは、その先にある残酷さ。あこがれが現実化していくということだ。

トップアイドル・神崎美月は、劇中でいちごに告げることは、アイドル活動のその果てにあることに他ならない。

あこがれをかなえることは、すなわちあこがれを失うことでもある。

あこがれを失った瞬間、アイドルはアイドルでなくなってしまう。人気絶頂にありながら、アイドル活動を終えようとする美月は、自分が完成してしまったことに気づいてしまったはずだ。

同様に、本作において完成した星宮いちごの物語は完結を迎えたことになる。いちごはもはや未完成ではなくなり、同時に主人公ですらなくなってしまったのだ。


そんな世界の中で、いちごがなぜ主人公であり、そしてトップアイドルになり得たのか。

その答えは、彼女自身が映画の中で答えてくれる。

「観てくれた人が素敵な明日を迎えるように」というライブのテーマは、いちごが発し続けたメッセージであり、決して完成することのない目標である。だから、他でもないいちごが主役になれたのだ、ということだ。

その答えを受け取るのは、続く世代である大空あかりたちであり、観客の役目である。生きている人間は誰だって未完成だ。我々にも、いちごと同じく精一杯に輝く資質が秘められているのだ。


なお、筆者はどちらかというとライバルコンテンツの『プリパラ』派だ。『アイカツ』とのライバル関係の中で、両者がより盛り上がっていくことを期待している。



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