味園ユニバース

本作は「関ジャニ∞」の一員、渋谷すばるの初単独主演映画である。
関ジャニ∞はメンバー全員が関西出身、関西を拠点にしたグループだ(ファンの方にとっては今さらな説明だろうが、一応)。よって本作も大阪・千日前にある「味園ビル」と、その中にあるイベントスペース「ユニバース」を舞台にしている。味園ビルもユニバースも実在している点もポイントだ。
しかし、ユニバースはジャニーズが代表するようなメジャーな音楽シーンの舞台というよりは、もっとアンダーグラウンドな(たとえば、本作に登場する赤犬のような)ライブが行われている場所だ。
そんな相反する世界観のぶつかり合い、混沌とした音楽の世界観が大きな魅力になっている。


大阪のとある公園で行われていた、音楽バンド「赤犬」のライブに、突然ある男(渋谷すばる)が乱入し、とんでもない歌声を披露した直後、意識を失う。
治療を受けた彼は、それまでの記憶をすっかり失っていた。赤犬のマネージャー、佐藤カスミ(二階堂ふみ)は仕方なく男に「ポチ男」と名付け、自分のスタジオで働かせることにする。
やがて、カスミと赤犬は彼の歌唱力に興味を持ち、ボーカルとして同じステージに立たせるほどに仲を深めていく。
だが、彼の記憶が戻り始めるのと共に、大きな事件の気配が彼らに迫ってくるのだった。


主演・渋谷すばるの存在感は圧倒的だ。
ファーストカットは彼の後ろ姿からなのだが、ほとんど坊主頭の後ろ姿だけでも、どこかしら「ただ者ではない」雰囲気が伝わってくる。
顔が映れば、それはなおさらだ。顔つきは整ってはいるもののワイルドで、眉間に力が入っている時には明らかにチンピラだ。しかも、必要とあらばためらいなく命を捨てる類の、非常に手に負えないチンピラだ。
ところが、記憶を失った途端に表情は様変わり。空っぽになって不安げ、どこに行けば良いのか分からない、そんな顔つきに変わる。この変身ぶりは見事で、わざわざ「記憶喪失です」と言われなくたって、それぐらいみればわかるよ、と言える演技に仕上がっている。


鑑賞後に筆者が調べたところでは、渋谷は関ジャニ∞のメインボーカルであり、ジャニーズの中でも特筆されるほどの歌唱力の持ち主として有名らしい。それこそ、グループアイドルとしてはいかがなものか、と言われるほどだという。
本作では、そんな渋谷の能力が遺憾なく発揮されてる。いままで恐ろしそうなチンピラだった渋谷が記憶を失い、「空っぽ」になっていたかと思った時、赤犬のボーカル、タカ・タカアキのマイクを奪い、和田アキ子の「古い日記」を歌う。
とてつもない声量と、こぶしのきいた歌声はその場に居る全員を凍り尽かせるほど。単に画面の中の演出だけではない。劇場で観ている観客ですら、驚きで身動きが取れなくなるほどだ。劇場の空気が変わるのを肌で感じられるほどである。
その後、カラオケで様々な曲を歌わされたり、主題歌「ココロオドレバ」に繋がっていくが、いずれもとんでもない歌唱力と表現力を堪能できる。劇場の高音質で聞けば、感動もひとしおだ。


中盤では日常の光景を切り取り、たわいもないが確実に仲が深まっていく様子を丁寧に描き出していく。
ここではヒロインである二階堂ふみの果たす役割は大きい。観客の目が自然に渋谷に引き付けられる中、時には引き立て役にまわり、時には緊張を和らげる。
一見素朴に見える演技は、実は徹底的な演技指導が行われる。関西弁を身につけるためだ。その甲斐あって、関西人が聞いても違和感のない発音は他の演者にも見落としていない。
「本当に21世紀か?」と言いたくなるような大阪の下町の風景と合わさり、素朴かつ地元感のある日常が繰り広げられていく。


とはいえ、それが永遠に続くわけではない。いつかはポチ男の記憶は戻るし、カスミも彼の記憶をたどっていく。
そこで明らかになっていくのは、下町の素朴さとはかけ離れたバイオレンスな過去だ。具体的にどんなことをしていたのかの詳しい説明はされないが、かつての彼を知る者らの言動が確実にその実態を浮かび上がらせていく。

特に印象的なのは、彼の姉夫婦の距離感を取ろうとしつつも、何か言ってやらなければ気が済まない、という空気感と、松沢匠演じるショウの「ヤベ、戻ってんじゃん」という一言。間違いなく、茂雄は暴力で物事を片付けようとするクズだったのだろう。だが、記憶を失った彼がすがったものは暴力ではなかったというのは、大きな救いと言える。


クライマックスではタイトルにもある味園ユニバースの、ネオンきらめく(としか言いようがない!)とんでもないステージでのライブが堪能できる。
ここに至るまでに赤犬のメンバーと一緒に新曲を作り出してきた過程もあり、ナレーションなどがなくても十分に感情を揺さぶってくれる。
ちょっと非現実的なレベルの光景ではあるが、ここで歌われる「ココロオドレバ」は心地よい歌声と合わせて実に見応えがある一曲になっている。くり返しになるが、劇場で観なければこの感動は味わえない。

とはいえ、「ココロオドレバ」は明らかに赤犬の持つ世界観とは違った曲だ。メインボーカルの代わりにステージに立ったのなら、赤犬らしい曲を渋谷が歌っているところがみたかった。また、クライマックスに向けての話運びも強引だ。どうやってあの場所を知り、どうやって会場まで戻ったのかの説明が一切ない。茂雄がなぜステージに向かったのかの説明がないのはいいとしても、何を恐れてステージに立てなかったのかもはっきりとは描かれない。最後の見せ場が、他に気になる点が多すぎたのは残念だ。せっかく、曲もパフォーマンスも素晴らしいのに。


このボタンを押すと、ネタバレ部分が表示されます。

味園ユニバース」への9件のフィードバック

  1. ピンバック: get social signals

  2. ピンバック: GVK Biosciences

  3. ピンバック: Judi Poker

  4. ピンバック: vitro pharmacology

  5. ピンバック: DMPK

  6. ピンバック: offizielle Seite

  7. ピンバック: how to make money with a iphone

  8. ピンバック: iraqi geometry

  9. ピンバック: Event Managers in Hyderabad

コメントは停止中です。