ジュラシック・ワールド

デジタル技術を映画に持ち込み、CGによって「存在しないもの」を生み出してしまった大傑作「ジュラシック・パーク」シリーズ、「ジュラシック・パークⅢ」から14年ぶりとなるシリーズ4作目。

日本では2015年で最大の売上を記録したのみでなく、世界興収でも「タイタニック」「アバター」に次ぐ史上三位(!)という大記録を売り上げた。

あえて意図的にシリーズの構造を守りながらも、この2015年にふさわしいアップデートを加え、本シリーズが与えてきた、映画を観ることへの原体験……平易な言葉で言ってしまえば、「ドキドキ」「ワクワク」をスクリーンに見事に復活させている。


コスタリカ沖の孤島。かつて計画されながら、様々な困難により閉園となっていた恐竜のテーマパークが、新たな出資者を得てふたたび開園した。

さらなる集客を求める出資者に後押しされ、園の責任者クレア(ブライス・ダラス・ハワード)は遺伝子操作により、T・レックスを超える凶暴さと知性を持つ新種、インドミナス・レックスを作り出す。

4匹のヴェロキラプトルをはじめとした恐竜の飼育係であるオーウェン(クリス・プラット)がそのケージの強度を確かめにやってきたとき、インドミナスの姿はこつ然と消えていた。

一方、ザック(ニック・ロビンソン)とグレイ(タイ・シンプキンス)の兄弟は、伯母のクレアのはからいで園を訪れ、非日常の世界である恐竜観察を愉しんでいた。

やがてインドミナスは暴走をはじめ、2万人もの観客をパニックに陥れることになる……。


本シリーズの最大の特徴は、言うまでもなく極限までリアルに表現される恐竜たちの姿だ。

誰もが図鑑や映像で観たことはあるものの、地球上で誰ひとりとして実際には観たことがない存在。また一方では、彼らは人間がまだ小さな動物の一種だったころに、人間の何倍もの時間地球の支配者でもあった。

「ジュラシック・パーク」は、そんな存在をCG技術によって「まるで生きているかのように」スクリーンに映し出したことが大きなショックと感動を観客に与えたのだ。

しかし、それから20年以上の時が経った今、まさにそのCG技術は映画になくてはならないもの、逆に言えばあって当然のものになった。今では何が起きても驚くことは難しい。


では、本作はいかにして観客に「ドキドキ・ワクワク」を与えているのか。

結論めいたことを言ってしまえば、それは綿密なストーリーテリングと見事な演出だ。

兄弟が恐竜の観光に訪れ、やがてパニックの中心に巻き込まれていくなど、ストーリーの大筋はあえてシリーズ一作目を大きくなぞっている。

有り体に言って、とても「ジュラシック・パーク」シリーズ「らしい」構造で、たしかに観たことがあるシーンが形を変えて描かれる。しかし、その所々に変化やアップデートが巧妙に仕掛けられている。


ストーリーのキモになるのは、二組の視点。オーウェンとクレアたち、責任者がなんとかしてパニック被害を食い止めようとする視点がひとつ。そして、グレイとザックの兄弟が、必死に生き残ろうとする視点だ。

前者はオーウェンとインドミナスの出会いからして強烈だ。高い知能を誇るインドミナスは、いきなり人間に対する知恵比べに勝利し、特別製のオリを脱出する。オーウェンは辛くも生存するわけだが、彼がその場で生き残ったのは身体能力のおかげではなく、生存に対する執念と、的確な判断力だ。

今最も勢いのある俳優と言って良いだろうクリス・プラットは、大人が観てもかっこいいヒーロー役を見事に演じている。相手役となるブライス・ダラス・ハワードも、セクシーな魅力と背筋の伸びたパワフルな印象で引けを取っていない。

これほどのヒーロー然としたキャラクターがシリーズに登場するのは初めてだが、T・レックス以上の存在として生み出したインドミナスと知恵比べをするにはこれだけ強いキャラクターが必要だったのかも知れない。もちろん、後半の他の映画で観たことがないほど斬新なバイクチェイスシーンもこのキャラクターあってこそだろう。


他方、多くの観客にとって、特に親に連れられて来るだろう子どもたちにとってはザックとグレイの兄弟の視点はさらにスリリングだ。

彼らはあくまで客としてテーマパーク訪れ、安全な楽しみを享受している。それはまさに観客と同じ立場だ。最初は乗り気でなかったザックが、ど迫力のモササウルスを目にした途端「次はどうする?」なんて切り替えてしまうのも、観客と見事に感情が一致する周到ぶりだ。

そんな状況が一転するのが、ジャイロスフィアのシーン。見るからに「安全が保証されています!」と主張している球体の中で、ザックは弟を喜ばせてやろうと、「すぐに戻れば大丈夫」とさらに奥へ向かっていく。ところが、そこから事態は急転直下。彼らの安全は文字どおり打ち砕かれ、安全なつもりで観ていた観客ごと、事態のど真ん中に放り込まれることになる。

個人的な感想ではあるが、筆者には兄がおり、彼らぐらいの年代はまさにあんな感じの関係だった。この時点でだいぶ肩入れしてしまっているので、一般的な感想よりもずっと感情移入しているおそれがあることは述べておく。


中盤に用意されたパニックシーンはまさに本作の見どころだ。

登場人物たちが余計なことをしたせいでどんどん事態がエスカレートしていくなど、パニック映画のキモを押さえている。

主要人物のひとりのように見えたカレンが恐ろしく派手な死に様を見せる部分などは、まさにパニック映画の醍醐味。「ああ、次は誰が死ぬか分からないぞ」という感覚をきっちり与えてくれる。

一方で、そのパニックはどこかコミカルな色合いもあり、観ていて怖いと同時に楽しくもある。

2万人を巻き込んだ事件にしてはややスケールが小さいような気もするが、上映時間とレーティングの関係で抑えざるを得なかったのだろう。にしても、こんなに凶悪な翼竜を見たのはずいぶん久しぶりな気がする。


クライマックスからは一転、オーウェンをはじめとした人間たちが、インドミナスに立ち向かっていく展開がやってくる。

しかし、インドミナスは巨体と狡猾な知性の持ち主。しかも、「さまざまな生物の遺伝子をミックスした」という特性から、次はどんなことを仕掛けてくるか分からない。ほとんど怪獣映画と言っても差し支えない堂々たる存在だ。

本作の冒頭で語られる通り、人間は本来ちっぽけな存在だ。もっと強力な存在……たとえば恐竜……がこの世界にいたことを忘れてはならない。だが同時に、そのちっぽけな人間がこうして反映しているのはなぜか。そんな大きなテーマをも、本作は描ききって見せている。

終盤の展開は、まさに「ジュラシック・パーク」シリーズを観てきた人へのご褒美と言ってもいいドキドキ・ワクワクするシーンの連続。ぜひ大きなスクリーンで観て欲しい。

「大自然の驚異」とか言っておきながら、インドミナスは人工物じゃないか!という、誰もがツッコまずにはいられない部分にも、クライマックスで見事にケリをつけてくれる。

ちなみに、最新の研究に基づけばT・レックスには羽毛があるはずだ、というツッコミも見かけられるが、本作に登場するT・レックスは1作目に登場したのと同一個体であるらしく、後から変更するわけにはいかなかったようだ。恐竜そのものではなく遺伝子操作によって生み出した「恐竜らしきもの」という設定でもあるので、大目にみてあげたい。どうしても見たければ、次回作に期待することにしよう。


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