ジョン・ウィック

「96時間」シリーズのヒットを受けてか、近年この手の復讐ものの映画が製作されるようになってきた。筆者としてはうれしい限りだが、本作はその中でも決定版ともいえる秀逸なデキだ。

キアヌ・リーブスの内面やイメージを反映させた、はまり役と言ってもいいキャラクター。キレのいいスピーディなアクション。想像が広がる魅力的な世界観と、100分の上映時間においしい要素が詰まっている。

繰り返し何度も見て作品の描いている世界に浸りたくなる快作だ。


ギャングに雇われ、殺し屋を生業としてきた男ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)は、裏稼業から足を洗い、妻とともに平穏な時を過ごしてきた。

妻が病でこの世を去り、葬式を終えた夜。打ちひしがれる彼の元に、亡き妻からのプレゼントが届く。それは一匹のビーグル犬。ジョンに寄り添ってくれる存在として、妻が最後に贈ったのだった。

だがその夜、ロシアンマフィアの子・ヨセフ(アルフィー・アレン)が彼の家に押し入り、車を奪うついでに犬を殺してしまう。生きる希望を奪われたジョンはヨセフへの復讐を誓う。

一方、ヨセフの父・ヴィゴ(ミカエル・ニクビスト)はジョンの報復をおそれ、先に彼を亡き者にしようと、腕利きの狙撃主マーカス(ウィレム・デフォー)ら殺し屋を雇っていく……。


オープニングから描かれるのは、妻を失ったジョン・ウィックの静かな暮らしだ。

裏社会を生業として生きてきたジョンにとって、いかに恋人であり妻であった女性が救いになったか、そして彼女を失ってしまったことが彼の心に暗い影を落とし、そんなときに贈られたビーグル犬がどれほどの救いだったか。そうした何重にも重なった複雑な心情が手際よく語られていく。

だからこそ、直後に訪れる崩壊も衝撃的だ。せっかく手に入れようとしていたものがあっけなく失われる。しかも、相手からすればそれは単なる気まぐれでしかないような、非常に軽々しい動機でだ。

ここで噴出するジョンの絶望と怒りは、激しく観客を揺さぶってくれる。今までの静かな雰囲気から、徐々にギアを切り替えていくようにジョンの内面と映画のテンションは加速していく。一緒になって怒りに震える観客も、拳に力が入っていくこと間違いなしだ。


そこからはジャンルのお約束に従った、きわめて上質な「おいしい」展開がまっている。

「俺の親父はマフィアだから何をやっても平気」と思い込んでいる若者が、調子に乗ってはしゃいでいると、いろいろな場所でこういわれる。「自分が何をしたかわかっているのか?」「誰に手を出したかわかってるのか?」

初めのうちはヨセフも「何を大げさな」と笑い飛ばしているが、やがて事態がそれどころではなくなっていることに気づかされることになる。父親・ヴィゴが送り込んだ10人以上の殺し屋が、見事に返り討ちにされるからだ。そのシーンは本作でも最大級の爽快なアクションシーン。見事に振付され、まるで完璧に計算されたダンスのように、素早いテンポで倒していくジョン。これはもう、とにかくかっこいい。ほれぼれする。アクション・スター、キアヌ・リーブスの魅力が遺憾なく発揮されている。

ただかっこいいだけではなく、生々しい痛みが伝わってくるような演出も見事。監督、スタエルスキとデヴィッド・リーチはともにスタント出身で、アクションのコーディネートで分厚い実績を持っている。キアヌの出世作、「マトリックス」(1999)の斬新なアクションの数々も、彼らのアイデアが大量に盛り込まれているだろう。その「マトリックス」で確率されたような、非常にテンポのいいアクションが本作の見どころとなっている。

ただスピードの速い演出を得意としているかと言えば、そうではない。中盤のクラブのシーンでは緊張感たっぷりに追う側と追われる側の視点をカットバックし、ジョンが殺し屋としての技のすべてをつぎ込んでヨセフを「ビビらせる」シーンの爽快さは特筆ものだ。


アクションだけが見どころかとそうではない。本作の大きな魅力としてあげられるのが、その独特の裏社会の描き方。殺し屋たちが集まるホテルという、漫画じみたアイデアを、大真面目な雰囲気で再現してみせていることには拍手を送りたい。

そこに集まる殺し屋の面々の豊富さ、交わされる会話の「いかにも」っぽさ、そしてその界隈でジョンがいかにおそれられ、尊敬されているかという一連のシーンは、嫌でも観客の想像力をくすぐってくる。もっとこの世界観での物語を観てみたい、と思わせてくれるのだ。

特に、裏社会だけで流通しているコインの存在は非常に魅力的。ばかばかしいアイデアに思えても、正々堂々と撮りきれば素敵なアイテムとして見せることができるのだ。

と、思っていたら、続編の製作も決定したようだ。というより、続編が決まったから日本公開が決まったという順番らしい。「ピッチ・パーフェクト」といい、ジャンル映画の扱いには嘆きたくなるが、時にはこういうパワーを持った作品が現れるというのは歓迎すべきことだ。


とにかくひとつ言えるのは、主人公を俳優の名前でなくそのキャラクターの名前で憶えているのはいい映画だ。

伝説の暗殺者ジョン・ウィックの名前を忘れることはないだろう。何があるかわからないから、強盗なんかしないようにしましょう、という教訓と一緒に。


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