ヘラクレス

ヘラクレスといえば、ギリシャ神話最強にして最もメジャーな英雄だ。
今でこそ映画のヒーローといえば、バットマンやスパイダーマンらコミックヒーローが思い浮かぶが、元々の「ヒーロー」は、ヘラクレスのような「半人半神」を表す言葉だった。
そう、元来、「英雄」は生まれからしてただの人間であってはならなかったのだ。
その英雄の中の英雄、ヘラクレスを主役に据えた本作。そのテーマ設定からして果敢な挑戦と言わざるを得ないが、それに応えるだけの見応えある一作に仕上がっている。

紀元前のギリシャ。ゼウスと人間との間に生まれたと言われるヘラクレス(ドウェイン・ジョンソン)は、獅子やヒュドラの退治といった、神話的活躍を全土に知られる英雄の中の英雄だ。
だが、そんな彼がどういうわけか、放浪の旅を続けている。しかも、金貨のために戦う傭兵としてだ。
その「英雄」に助けを求めたのは、トラキアの王コテュス(ジョン・ハート)。ケンタウロスを率いて内乱を起こしたというレーソス(トビアス・ザンテルマン)を倒して欲しいというのだ。
果たして、この強敵にいかにしてヘラクレスは立ち向かうのか……。

不死身の英雄ヘラクレスを描く上で避けて通れないのが、その存在感をいかに描くか、ということだ。
これに関して、本作の回答はこうだ。
現代にヘラクレスがいるとしたら、ドウェイン・ジョンソンのような男に違いない! だからドウェイン・ジョンソンが演じればもうそれでいいのだ!
完璧だ。文句のつけようがない。
事実、ジョンソンの存在感は完璧だ。なんといっても、かつてはプロレスラーとしてチャンピオンまで上り詰めたその肉体美である。
壮年にさしかかったヘラクレスの、渋みがある筋肉を見事に表現している。半裸で繋がれているシーンなど、ほれぼれするほどだ。
はっきり言ってしまえば、この映画はジョンソンの筋肉を思うさま堪能できるというだけでも十分に価値がある。というか、そのために企画された映画といっても過言ではないと思う。

とはいえ、それだけが見所かといえばそうではない。
アクションシーンの見所は、ヘラクレスとその仲間たちの圧倒的な“英雄”感である。
簡単に言えば、呆れるほど強いのだ。
重たそうな棍棒を軽々とスイングするへラクレスはもちろんのこと、斧を振り回して敵をなぎ払うテュデウス(アクセル・ヘニー)、弓でふたりを同時に射貫くのは当たり前のアタランテ(イングリッド・ボルゾ・ベルダル)などなど、「こいつらがひとりいれば戦争に勝てるんじゃないか?」と言わんばかりの活躍を見せてくれる。
どう見ても、ひとりにつき100人は倒している。無茶苦茶な強さだ。

もう一方の楽しみが、古代ギリシャ世界をあんがいに繊細に描いているという点だ。
衣装や風景に気を使って世界観を構築している。決して、エセギリシャ「ふう」にとどまってはいない。
それは、見せ場になる戦争シーンでも同様だ。全身を覆う盾を構えて壁を作り、隙間から槍で攻撃するファランクスや、しっかり後方から援護を放つ弓兵隊などなど。当時の戦争がどのように行われていたのかということを、驚くほど緻密に描いている。
そのリアリティを成立させるのは、ヘラクレスらによる練兵のシーン。古代ギリシャ世界の風景として楽しく見ることができる。
とはいえ、それを吹き飛ばすようなヘラクレスの強さはリアリティなどどこかに忘れてきたかのごとし。足場をきっちり作った上で、ヒーローには思うさまアクションをしてもらおうという、この上なく明確なコンセプトが見て取れる。

さて、少し神話に詳しい方なら、当然の疑問があることだろうと思う。
「ヘラクレスといえば12の難行でしょ? なんで戦争なんかしてんの?」ということだ。
本作で描かれる戦争は巨人族と戦うギガントマキアではない。あくまで、実在したギリシャの王国トラキアの内戦である。
そもそも、ヘラクレスといえば孤高の英雄。仲間を連れて傭兵などしているわけがない。
では、ここにいる素晴らしい筋肉を持った男は何者なのか。人間であってはならない「英雄」の正体に迫る。それこそ、この映画が突きつける最大のテーマである。

ヘラクレス伝説の舞台である「神話」としてのギリシャ世界。
リアリティをもって描かれる戦争が行われていた、「歴史」としての古代ギリシャ。
その2つが画面の中でぶつかり合うこと自体が、この映画のテーマと密接に関わっている。
つまるところ、この映画が描いているのは、神話が歴史になり、歴史が神話になる、その境目の瞬間なのである。

……というわけで、できるだけネタバレにならないように気を使って紹介してみた。
というのも、この映画は観客が内容に対して戸惑うことまで計算してストーリーが作られているからだ。
最初の30分は「ん?」と驚き、次の30分は「あれ?」と戸惑う。
そしてその後は「そういうことか!」とスッキリする視聴感を味わわせてもらった。
あまり映画の内容を知っているとこの快感は味わえないと思われるので、できるだけ情報を仕入れないようにして見てほしい。
公式サイトに軽く目を通しておく程度がちょうどいいように思う。

ちなみに、ヘラクレスが12の難行に挑むきっかけになった事件こそ、彼が自らの子を殺したという狂気であり、難行の最後を飾るのが地獄の番犬ケルベロスとの戦いである。
見た方には、実にうまく素材を料理していることが分かるだろう。

肉体美と歴史ロマン、そしてひとりの男の苦悩と解放が描かれる本作。
ギリシャ神話の知識など一切なくても楽しむことができるので、ぜひ気楽な気持ちで観て、素直な感動を味わっていただきたい。

ヘラクレス」への1件のフィードバック

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